システム開発を発注する際、開発会社へ依頼した後に自社が何を決め、いつ確認するのかが見えていないと、認識ずれや判断待ちが起こりやすくなります。工程名を知るだけではなく、業務側の判断、成果物のレビュー、受入準備までを一続きで捉えることが重要です。
この記事では、要件定義から保守・運用までの流れを、発注者の実務に沿って整理します。読後には、自社案件の決定者・確認する成果物・回答期限を工程ごとに整理できるようになり、相談や見積比較の前に社内で決めるべきことを具体化できます。

システム開発は工程を順番に進めるだけでなく、各段階で発注者が範囲・優先順位・受入可否・運用方針を判断しながら進めます。
01Sectionシステム開発の工程は、発注者の判断をつなぐ流れで進む
一般的な受託・委託型のシステム開発は、「要件定義→設計→実装→テスト→リリース→保守・運用」を基本軸として進みます。前の工程で決めた対象範囲、優先順位、利用条件が、後の設計・テスト・運用方法に影響します。
工程、役割、管理資料を体系的に確認する考え方は、デジタル庁のデジタル社会推進標準ガイドラインでも示されています。ただし、これは政府情報システム向けの標準です。民間案件でもそのまま同一の進め方になるわけではなく、以下の表は発注者が確認すべき論点を整理するための代表例として捉えてください。
| 工程 | 目的 | 代表成果物 | 発注者が決めること | 次工程へ進む確認点 |
|---|---|---|---|---|
| 要件定義 | 何を、なぜ、どこまで作るかを定める | 要件一覧、業務フロー、受入条件案、KPI案 | 業務目的、対象・対象外、優先順位、判断者 | 対象範囲、未決事項、受入条件案が明確か |
| 設計 | 要件を画面、処理、権限、連携へ具体化する | 基本設計資料、画面案、権限一覧、連携資料 | 業務上の例外、権限、連携、移行方針 | 業務適合性、例外処理、権限を確認済みか |
| 実装 | 合意した設計に沿って機能や設定を作る | 動作する機能、進捗報告、課題・変更管理表 | 判断待ち事項への回答、変更の優先順位 | 範囲・費用・日程・品質への影響を記録できているか |
| テスト | 要件・品質条件を満たし、業務で使えるかを確かめる | テスト計画、結果、不具合・課題一覧、受入記録 | 受入シナリオ、合格基準、残課題の扱い | 受入条件とリリース可否の基準が明確か |
| リリース | 本番利用へ安全に切り替える | 移行計画・結果、操作資料、判定記録 | 切替・切戻し、周知、教育、問い合わせ窓口 | 運用担当と切戻し方針が整ったか |
| 保守・運用 | 安定利用、効果確認、改善を継続する | 運用手順、保守報告、改善一覧、KPI記録 | 保守範囲、改善優先順位、継続費用の扱い | KPI・運用課題に基づき次の改善を判断できるか |
工程名だけで承認時点を決めない
工程の名称、境界、成果物の粒度、承認の効力は、開発手法、契約、対象範囲、体制で変わります。提案書や契約書では、工程名ではなく「何を決めるか」「何を提出するか」「どの状態を完了とするか」を確認します。
02Section工程別に見る、発注者が決めることと確認する成果物
発注者が担う中心的な役割は、技術的な実装方法を決めることではなく、業務目的、優先順位、受入可能な状態、運用方針を判断することです。経済産業省の情報システム・モデル取引・契約書も、要件定義、開発、移行、運用・保守を分けて役割分担や契約条件を検討する視点を示しています。
要件定義・設計では、目的、範囲、業務適合性を確認する
要件定義は、何を、なぜ、どこまで作るかを業務の観点から決める工程です。発注者は、現場の困りごと、対象利用者、初回リリースで必要な範囲、対象外にする範囲を整理します。導入目的は、現状値、目標の方向性、測定方法、確認時期、責任者を含むKPIとして仮置きしておくと、リリース後の効果確認につなげやすくなります。
設計では、画面や業務フロー、権限、帳票、外部連携が実際の業務に合うかを確認します。開発会社が作成する資料を技術資料として読み流さず、「誰が、どの場面で、どの情報を見て、どのように処理するか」という利用者の視点でレビューします。
非機能要件
性能、停止しにくさ、セキュリティ、運用、移行など、機能そのもの以外の利用条件です。必要な水準は、扱う情報、利用者数、業務停止時の影響などによって変わります。
実装・テストでは、判断待ち事項と受入準備を管理する
実装中には、仕様の解釈や追加要望など、発注者の判断が必要な事項が発生します。回答が遅れると、実装やテストの着手待ちにつながるため、質問ごとに回答者と期限を置くことが重要です。追加要望は、初回リリースで必須か、後続改善へ回せるかを業務影響で判断します。
テストでは、開発会社による確認とは別に、発注者・利用部門が業務シナリオで利用できるかを確認する準備が必要です。テスト担当者、テストデータ、利用部門が確認できる期間、修補後の再確認方法を、実装が終わる前から確保します。
リリース・保守では、利用開始と効果確認をつなげる
リリースは、機能が完成したことだけを意味しません。移行、権限設定、利用者への周知、教育、問い合わせ窓口を整え、業務として利用を始められる状態をつくる段階です。
保守・運用では、問い合わせ、障害、利用状況、KPIを確認し、改善要望を業務影響と優先順位で並べます。「リリースした」ことと「導入目的を達成した」ことは別です。運用報告を受け取るだけでなく、改善の判断者と判断時期を決めておきます。
工程ごとに確認する代表的な成果物
要件・業務フロー・受入条件案
目的、対象・対象外、優先順位、例外業務、利用者を確認する基準です。
画面案・操作フロー・権限・連携資料
現場が業務を実行できるか、権限やデータの受け渡しに漏れがないかを確認します。
進捗報告・課題・変更管理表
判断待ち、変更内容、回答期限、影響範囲を共有し、記録するために使います。
テスト計画・結果・不具合一覧
何を確認し、どの結果なら受入可能とするか、残課題をどう扱うかを確認します。
移行計画・操作資料・運用手順
切替、教育、問い合わせ、障害時対応を含め、利用開始後の業務を準備します。
03Section発注者側の体制と承認ゲートを先に置く
開発の遅れは、技術上の問題だけで起こるわけではありません。承認者が不明、利用部門のレビューが後回し、質問への回答期限がないといった状態でも、工程は止まりやすくなります。着手前に、工程ごとの主担当、承認者、レビュー参加者を置きます。
役割は、業務責任者、現場代表、情報システム部門、決裁者といった肩書きで固定せず、案件の体制と社内規程に沿って定めます。各工程で「誰が決めるか」と「いつまでに回答するか」を明確にすることが、判断待ちを防ぐ基本です。
着手前に決める進行管理の項目
役割分担
工程ごとに主担当、承認者、レビュー参加者を定めます。
承認対象
対象範囲、優先順位、受入条件、変更要望、リリース可否など、工程ごとの判断対象を明確にします。
回答期限と相談先
質問や未決事項ごとに回答期限を置き、期限内に決められない場合の相談先も決めます。
リリースでは利用開始の可否を、保守・運用では利用状況や業務効果を踏まえた改善を、それぞれ別の判断として管理します。KPIも数値だけを置かず、現状値、目標、計測方法、確認時期、責任者を定めると、運用開始後の改善判断につなげやすくなります。
04Section受入条件、受入テスト、リリース判定、検収を分けて確認する

業務で利用できるかの確認と、契約・仕様書に沿った成果物確認は、目的と記録を分けて扱います。
受入テスト、リリース判定、検収は同じ意味ではありません。いずれもプロジェクト終盤に行われることがありますが、目的と確認対象を分けて記録することで、業務上の判断と契約上の手続を混同しにくくなります。デジタル庁の標準ガイドライン解説書も、テストや検収に関する管理観点を扱っています。
受入テストと検収
受入テストは、発注者・利用部門が業務で利用できるかを確認する活動です。検収は、契約・仕様書に沿って成果物を確認し、受け取る手続に関わります。
受入テストによる業務利用の確認と、検収による契約上の成果物確認は分けて扱います。
- 受入条件は、業務利用の可否を判断する基準です。誰が、どの業務シナリオとデータで、何を合格とするかを定めます。
- 受入テストは、受入条件に沿って利用可否を確認する活動です。合否の根拠、不具合、残課題、暫定対応を記録します。
- リリース判定は、受入結果に加え、移行、教育、窓口、切戻し、残課題の業務影響を踏まえた利用開始の判断です。
- 検収は、契約・仕様書で定めた成果物や条件を確認する手続です。
受入テストと検収を同一視しない
実施順序、未解決事項の許容条件、支払との関係、契約不適合への対応は案件ごとに異なります。契約書・仕様書に記載された条件を確認してください。
受入・リリース・検収で確認すること
- ✓
受入条件:誰が、どの業務シナリオ・データで、何を合格と判断するかを定めた。
必須業務、例外処理、権限、連携後の確認も対象に含める。
- ✓
受入テスト:合否根拠、重大な未解決事項、暫定対応、結果記録を確認した。
修補後に再確認する対象と担当者も決める。
- ✓
リリース判定:移行、教育、問い合わせ窓口、切戻し、残課題の業務影響を確認した。
利用者への周知と初期運用の責任者も確認する。
- ✓
検収:契約・仕様書上の成果物、納品物一覧、検収条件、未解決事項の扱いを確認した。
支払や契約不適合への対応を含め、契約書・仕様書を参照する。
成果物、検収条件、変更時の見積・承認、責任分担を確認する際は、システム開発の契約で確認したいポイントもあわせて確認すると、契約上の論点を整理しやすくなります。
05Section手戻りを防ぐために、変更とリスクを工程ごとに管理する
手戻りを減らすには、問題が起きてから対応するのではなく、早い段階で確認すべき論点と判断経路を置くことが有効です。IPAの機能要件の合意形成技法は、要件の合意形成が不十分な場合、下流工程で手戻りにつながり得ることを示しています。
要件・非機能要件は、対象外も含めて確認する
業務フロー、例外処理、権限、外部連携だけでなく、性能、セキュリティ、運用、移行も早期に確認します。すべてを初回リリースに含める必要はありませんが、対象外にする事項と、その理由を記録しないと、後から要件漏れか追加要望かを判断しにくくなります。
意思決定と変更要求は、記録で管理する

変更は要望の可否だけで決めず、業務影響と各工程への影響を確認したうえで、判断内容を記録します。
変更を口頭やチャットだけで進めると、対象範囲、費用、日程、品質への影響が共有されないまま実装に入るおそれがあります。変更の必要性と影響を確認し、誰がいつ判断したかを残します。
変更が発生したときの確認順序
- Step01
業務影響を特定する
誰のどの業務に影響するか、顧客影響や業務停止の可能性があるかを確認します。
- Step02
初回リリースでの必要性を決める
必須か、代替手段があるか、後続改善へ回せるかを優先順位として判断します。
- Step03
影響範囲を確認する
要件、設計、実装、テスト、移行、教育、運用、外部連携のどこを見直す必要があるかを確認します。
- Step04
費用・日程・品質への影響を見積もる
追加作業だけでなく、受入条件や修補期間、リリース日への影響を確認します。
- Step05
決定と次アクションを記録する
承認者、判断日、根拠、利用者への周知要否、次の担当者と期限を残します。
受入・移行・運用準備をリリース前に終わらせる
受入担当者、テストデータ、修補期間、移行手順、教育、問い合わせ窓口、障害時の連絡先は、リリース直前にまとめて決めると不足が出やすい項目です。リリース判定の前提として、担当と完了条件をそれぞれ置きます。
06Section期間と費用は、相場ではなく工程範囲と前提条件で比べる
期間と費用は、機能数だけでは決まりません。要件の確実性、外部連携、データ移行、非機能要件、テスト・移行支援、発注者側のレビュー体制、保守範囲などで変わるため、一般的な費用レンジを一律に当てはめるのではなく、見積もりの対象範囲と前提条件をそろえて比較します。
期間の妥当性確認には、IPA「ソフトウェア開発分析データ集2022」が示す近似式、開発5工程の工期(月)=0.40×開発5工程の工数(人時)^0.33を参照できます。ここでの開発5工程は、基本設計、詳細設計、製作、結合テスト、総合テスト(ベンダ確認)を指します。要件定義、社内承認、受入テスト、移行、教育などの工程外の期間は含まないため、契約全体の期間や利用開始日、費用相場には転用できません。
希望リリース日からの逆算計画や工程外日程の置き方は開発スケジュールの立て方で、費用層の分け方や見積書の比較方法は見積もりの取り方・見方で詳しく解説しています。見積額に差があるときは、金額だけで判断せず、対象範囲、連携・移行、品質確認、発注者側に求められる作業、保守範囲、除外事項が同じ条件になっているかを質問します。
07Sectionウォーターフォール型とアジャイル型は、発注者の運用可能性で選ぶ
ウォーターフォール型とアジャイル型の違いは、工程があるかないかではなく、要件・設計・実装・テスト・レビューをどの単位で進め、いつ意思決定するかにあります。デジタル庁のアジャイル開発実践ガイドブックは、反復的な開発を含む進め方を選択肢として整理しています。
| 比較軸 | ウォーターフォール型で確認すること | アジャイル型で確認すること |
|---|---|---|
| 変更頻度 | 開始時にどこまで要件を固め、変更をどの手続で扱うか | 優先順位を誰がどの頻度で見直し、変更をどの単位で取り込むか |
| レビュー頻度 | 工程ごとの成果物レビューに誰が参加し、いつ承認するか | 短い開発単位のレビューに利用部門と決定者が参加できるか |
| 固定条件 | 範囲、予算、期日、品質のうち何を固定し、何を調整するか | 総予算・期限・反復ごとの成果範囲をどう管理するか |
| 分割リリース | 一括移行か、段階導入が可能か | 小さな単位でのリリースと利用者検証が可能か |
| 契約・責任分担 | 成果物、検収、変更条件をどう定めるか | 作業単位、成果確認、優先順位決定、契約上の扱いをどう定めるか |
ウォーターフォール型でも変更やレビューは発生します。一方で、アジャイル型でも、導入目的、優先順位、レビュー方法、成果確認、責任分担を決めずに進められるわけではありません。手法名よりも、変更の頻度に対して自社がどの程度レビュー・判断できるか、分割リリースが業務上可能かを確認します。
08Section相談・見積比較の前に、確認観点をそろえる
初回相談の時点で、すべての要件を確定する必要はありません。ただし、課題や対象範囲、未定事項の決め方が共有されていないと、提案や見積もりの比較条件がそろいにくくなります。
相談前に整理する確認観点
- ✓
課題と範囲:現行業務の困りごと、対象部門・利用者・業務・機能、初回対象外、既存システムとの連携を整理する。
- ✓
体制と期限:業務責任者、現場代表、決裁者、レビュー可能な頻度、希望リリース日、社内承認・調達の期限を整理する。
- ✓
予算と保守方針:初期費用と継続費用の予算枠、問い合わせ窓口、障害連絡、改善要望、保守分担を整理する。
- ✓
KPIとリスク:導入目的、現状値、目標の方向性、扱う情報、データ移行、停止許容時間、社内規程への影響を整理する。
- ✓
未定事項:未定の内容と、誰がいつまでに決めるかを整理する。
未定事項は空欄のままにせず、「誰が」「いつまでに」決めるかを付けて共有します。これにより、開発会社は前提条件を明示しやすくなり、発注者側も提案内容の違いを金額以外の条件で比較できます。
要件を具体化する段階では、要件定義とは?発注者が主導すべき理由と進め方・成果物を参照してください。成果物、検収条件、変更時の見積・承認、責任分担は、システム開発の契約で確認したいポイントとあわせて、提案書・見積書・契約書で確認します。
システム開発の工程でよくある質問
要件が固まっていなくても開発会社へ相談できますか?+
相談できます。すべてを確定するより、課題、対象範囲の仮説、期限、予算上の制約、未定事項とその決定者・期限を共有することが重要です。
受入テストと検収は同じものですか?+
同じではありません。受入テストは業務で利用できるかを確認する活動であり、検収は契約・仕様書に沿った成果物確認に関わる手続です。順序や未解決事項の扱いは契約書・仕様書で確認します。
アジャイル型なら要件定義や契約確認は不要ですか?+
不要にはなりません。詳細を反復的に決める場合でも、導入目的、優先順位、レビュー方法、成果確認、変更時の扱い、責任分担はあらかじめ確認する必要があります。
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